【腸を仕舞う】5.手術前日から手術直前まで

 前日は21時から絶食だった。全身麻酔は嘔吐の危険があるらしく、そのときに嘔吐物で気道が塞がれてしまうことを防ぐ意図とのことだった。早めに床についたけれど眠れず、積んだ本などを消化して過ごした。本から目を離すと、負の思考…

【腸を仕舞う】4.手術でなにをされるか

 CTのあと、クリニックの医師から手術の説明を改めて受けた。治療の仕組みとしては、鼠径部の穴に内側からメッシュを当て、二度と腸が出ないようにするという物理的にシンプルな方法である。そのメッシュを当てる方法にいくつかある。…

【腸を仕舞う】3.手術前検査

 手術の数週間前に検査を受ける必要があった。血液検査とかレントゲンとか健康診断でやるような項目に加えて、珍しいところで下腹部CTがあった。臓器に別の問題があると脱腸の手術ができないので、事前にそれを確かめる意図とのことだ…

【腸を仕舞う】2.手術の予約

 そこのクリニックは院長と、あとは看護師数名で運営されており、駅近くのメディカルモールの中にあった。メディカルモールと書かれているのになぜか上階に保育園があって、保育園の真下で行われる手術は揺れとか大丈夫なのか心配になっ…

【腸を仕舞う】1.こんにちは内蔵

 最近はインターネットを使わずに過ごすことをデジタルデトックスとか言ったりして、インプットを抑えることが良いとされるシーンがある。ところで僕のようなひどい近親が裸眼で過ごすこともそれに近い効果があるように思う。特に、近視…

【二度目の入院の話 】10.脱走の理由

 手術前には考えもしなかった事実の一つに、手術後一ヶ月は傷口から血が出続けるしわりと痛いということがある。早く回復したら退院が早まるかも? など想像していたが、痛い一ヶ月のうち、人としての生活が厳しい十日間を病院で過ごす…

【二度目の入院の話 】9.食事

 手術後数日経つと、遂に食事がはじまる。 はじめの食事は十倍がゆだけだった。それから七倍がゆ、五倍がゆと、空っぽの腹にだんだんと入れていく。これは赤ちゃんの追体験だと思った。赤ちゃんとは何か。生まれ変わった肛門だ。あるキ…

【二度目の入院の話 】8.それぞれの理由

 入院中は特にすることがなかった。特に絶食中は食事も出ないので、定期イベントといえば朝9時にロビーに集合し、院長の診察を受けることくらいだった。ロビーに向かう僕たちの歩き方は似ていた。みな膝を軽く曲げて、サスペンションの…

【二度目の入院の話 】7.ナースコールからの卒業

 窓ガラスがミシミシと音を立てている。カーテンを開けると、洗車機の中に居るみたいだった。その台風は記録的な規模で、テレビは何度も注意や避難を呼びかけていた。都内でも数十年かぶりに多摩川が氾濫して浸水被害が発生した。今それ…

【二度目の入院の話 】6.説得

 ところで、麻酔が切れたということは、手術跡の痛みを直接感じるということでもあった。そのうち、五寸釘をコーン! コーン! と打ち続けているような痛みの波が襲ってきた。それはまだ良いほうで、ちょっとでも体を動かそうものなら…