【二度目の入院の話 】2.痔になった経緯

 大橋さんの話の前に、僕が痔になった経緯を説明しておきたいと思う。何にも理由はあると思っていて、痔瘻にもきっと理由がある。あとから知ったのだけど、院長いわく、痔のきっかけの殆どは、拭きすぎによる小さな傷なんだそう。ただ僕はウォシュレットで流したあと、ポンポンと水を吸うように拭くスタイルなので、これはあまり当てはまらない。
 僕が今も疑っているのは、友人がやっている会社に導入された高級チェアである。この友人は前職の同僚で、同じ時期に会社をやめてそれぞれ独立したのだが、家が近かったので同じシェアオフィスを契約して毎日顔を合わせていた。
 お互いそこまで上昇志向もなく、郊外の小さなシェアオフィスで一緒に霞を袋詰めするような仕事をしていたのだけど、ある日その友人が急にキレて「もうこんなところ嫌だ! 渋谷で勝負する!」と宣言して部屋を飛び出した。直接のきっかけは、シェアオフィスの隣の区画の人が猛烈に臭いお香を焚きはじめたからだった。ここのシェアオフィスは、一つの部屋を数区画に区切ってたくさんの事業主に又貸しするものだ。漫画喫茶のようなものを想像していただくと良いかもしれない。それぞれの壁は薄く、入口は共通なので、お香なんか焚いたら全区画に影響するのは普通に想像がつく。だから確かに「なんで焚いたの?」とは思った。思ったけれど、だから渋谷に出て勝負しようとまでは思わなかったし、僕は今もそのシェアオフィスにお世話になっている。ちなみにお香を焚いていた人は普通に管理人に注意されて、そのあとすぐにシェアオフィスをやめてしまった。
 一方で、臭いお香に突き動かされて渋谷に進出した友人はあっという間に事業を拡大して、駅チカのビルを複数階借りる規模に会社を成長させた。彼の仕事をいくつか手伝っていた僕は、週一くらいで渋谷へ通うようになった。

 ある日彼の会社へ行くと、オフィス用品が一新されていた。
「人への投資はいちばんリターンが大きいですから。全部吟味して最高のコスパのものを選んだんですよ」と言う。最近、社長会みたいなものに参加していて、上場企業の社長がメンターになったらしい。「ビビン丼が一番旨い、ビビン丼だけ食べて生きていたい」と言っていた人が、高級チェアを大量注文するようになった。人は場所、付き合う人で簡単に変わる。
 ただその高級チェアというのがちょっと聞いたことのないものだった。アーロンだとかよく知られたようなものではなくて、人間工学に基づいて椅子を根本から再発明した、と謳っているらしく、形状も奇妙だった。座席が縦半分に割れていて、二つの山のようになっていた。おしりは割れているのだからこちらも……ということだろうか。座ってみると、誰かの太ももの上に座るような感覚だった。
 なるほど、今までの椅子では体験したことのない感覚だ。しかしこれは……どうなんだろう……? と思って、座りながらグリグリとおしりを動かしていたとき、肛門に激烈な痛みが走った。両方の山におしりが引っ張られて、肛門が開いたのだった。「アギャ!」という声が出たと思う。ちょっと裂けたかもしれない。怖くなった僕は「これは座り心地いいねえ」と、高級チェアの上に正座をして難を逃れた。

 それからである。歩くたびに、なんか肛門がかゆいような、ひりつくような。
 今僕が持っている痔の知識に照らせば、この時点で病院へ行けばおそらく塗り薬だけで済んだ。僕からのアドバイスとしては、歩いていておしりのことが忘れられない程度に気になりだしたら、恥ずかしがらずに肛門科を受診することをお勧めする。誰かのことを忘れられなくなったら恋だし、おしりのことを忘れられなくなったら肛門科である。
 初心者は、患部を清潔にすれば治るかも? と考えて、拭きすぎのスパイラルに入る。これが最悪の手で、かえって雑菌が付着して悪くなる。周りにおしりの有識者が不足していた僕は順調に最悪の道を突き進んでいった。

ある日彼の会社へ行くと、オフィス用品が一新されていた。
「人への投資はいちばんリターンが大きいですから。全部吟味して最高のコスパのものを選んだんですよ」と言う。最近、社長会みたいなものに参加していて、上場企業の社長がメンターになったらしい。「ビビン丼が一番旨い、ビビン丼だけ食べて生きていたい」と言っていた人が、高級チェアを大量注文するようになった。人は場所、付き合う人で簡単に変わる。
ただその高級チェアというのがちょっと聞いたことのないものだった。アーロンだとかよく知られたようなものではなくて、人間工学に基づいて椅子を根本から再発明した、と謳っているらしく、形状も奇妙だった。座席が縦半分に割れていて、二つの山のようになっていた。おしりは割れているのだからこちらも……ということだろうか。座ってみると、誰かの太ももの上に座るような感覚だった。
なるほど、今までの椅子では体験したことのない感覚だ。しかしこれは……どうなんだろう……? と思って、座りながらグリグリとおしりを動かしていたとき、肛門に激烈な痛みが走った。両方の山におしりが引っ張られて、肛門が開いたのだった。「アギャ!」という声が出たと思う。ちょっと裂けたかもしれない。怖くなった僕は「これは座り心地いいねえ」と、高級チェアの上に正座をして難を逃れた。

それからである。歩くたびに、なんか肛門がかゆいような、ひりつくような。
今僕が持っている痔の知識に照らせば、この時点で病院へ行けばおそらく塗り薬だけで済んだ。僕からのアドバイスとしては、歩いていておしりのことが忘れられない程度に気になりだしたら、恥ずかしがらずに肛門科を受診することをお勧めする。誰かのことを忘れられなくなったら恋だし、おしりのことを忘れられなくなったら肛門科である。
初心者は、患部を清潔にすれば治るかも? と考えて、拭きすぎのスパイラルに入る。これが最悪の手で、かえって雑菌が付着して悪くなる。周りにおしりの有識者が不足していた僕は順調に最悪の道を突き進んでいった。