どうでもいいイヤホン

先日、出先でWeb会議があるのにイヤホンを持ってこなかったから近くのドンキで最安のどうでもいいイヤホンを買った。ドンキ文字で「どうでもいいイヤホン!」って書いてある棚の中でも最安のどうでもいいイヤホンを買って、開けたらどうでもいいイヤホンが一つ入っていたんだけど、一緒にイヤーピースが7サイズ入っていて「えっ……きめ細やか……」ってなった。生きとし生けるものすべての耳にマッチしますように、という祈り。聖人に加えられるべき。聖イヤホン。っていうかAnkerのノイキャンイヤホンでさえ4サイズだった気がする。S、M、L、XLみたいなやつ。あれは全然ダメだな。人類がたった4種類に分類できると思うなよ。時代は7サイズ。

ただまあその安いどうでもいいイヤホンですから小さいネジ袋みたいなやつに7×2で14個のイヤーピースがパンッパンに入っていて、まあ、これはしょうがない、どうでもいいイヤホンですから、予算がない。それでこう、袋から出すじゃないですか、ぱっと見、分かんないんですよ。ペアが。これとこれ同じ? ちょっと大きいかな? なんて少し格闘したんですけど、違う違う、待ってくれ、この作業なに? 何の神経衰弱だよ。だいたい7ってさあ、刻みすぎじゃない? 難しい。4ぐらいが良くない? あと、こう、ちっちゃいネジ袋にギュッて詰まってたものだからいくつかの端っこがぺろんぺろんに折れて戻らなくなっていて、スコティッシュ・フォールドの折れ耳みたいにフニャア~ってなっていて、こっちのスコテッシュは可愛くないですよ、耳の中でガサガサしてフィットしない。それで、そのフニャア~って折れてるやつ全部使えないなあって抜いて、あとは明らかに5メートル以上の巨人向けのでかいやつを抜いたら、中くらいのワンペアが1つ残った。パンッパンの袋から1つだけ残ったやつって最強じゃん。おれ、最強を使うじゃん、と納得しかけたけど、違うわ、何なんだこれは。蠱毒じゃないんだから。その残りの6ペアは何だったんだよ。賃貸サイトのおとり物件かよ。それか、いくつか折れちゃうことを見越してたくさん入れておく作戦かな。そうかもしれない。

マンボウの卵巣には約3億個の卵が入っているという。そのうち大人になれるものはほんの一握りらしい。いやだから、マンボウさ、違うのよ。その億とか生む作戦に舵を切る前に、いろいろすることあると僕は思うんだよね。ちょっと一緒にダーウィンが来た見ようか。見える? 画面ここ。見てる? 見る気はある? こっち見て。まあいいか、始めるけど、ほら見て、これはアフリカンシクリッド。お母さんの口の周りに子供がいっぱい居るでしょう? 口の中で子育てをする「マウスブルーダー」って言うんだ。聞いてる? 見てる? これはカッコウナマズ。これは面白くて、別の魚の口に自分の子供を押しつけるの。見てる? ダメですね。

とにかくマンボウは億生むという全然セクシーでない解決法にたどり着いてよろしくやっている。どうでもいいイヤホンも、パンッパンにイヤーピース詰めておくという全然セクシーでない解決法にたどり着いたと思うとそれはそれで感慨深い。高いイヤホンなら箱の構造を少し複雑にしてイヤーピースを過剰に保護するような形状もとれるのかもしれないけれど、それが出来ない価格帯のどうでもいいイヤホンはどうでもいいイヤホンなりに、クレームや返品が来ないように進化する過程で同梱するイヤーピースがひとつ、またひとつと増えていったんでしょう、きっと。一万年後には緩衝材代わりにイヤーピースが詰まってるみたいな感じになって、マンボウ的どうでもいいイヤホンは一応の完成形を見る。

ちなみにこんな感じで買ったどうでもいいイヤホンが家に5つくらいある。僕が一番セクシーでない。