ペイペイ怖い

僕は本当はペイペイについて語る資格はない。

利用者に基本的に際限なく20%を還元するという100億円あげちゃうキャンペーンに完全に乗り遅れた。インストールはした。ちょっと興味があって待ってたし、わりと早かったと思う。一区、鶴見中継所は先頭集団でタスキをつないだ。そのあとの二区でなんと棄権した。そうはいっても別に欲しいもの無いな、と思って、ぼんやりと過ごした。その後、日本国民は10日で100億円を使い切り、キャンペーンは終了した。 僕は一度もペイペイを起動していない。

そもそも、店頭で「ペイペイで」と言えるかどうか自信がない。ペイペイ。レジの人の気分を害してしまったらどうしよう。 自分がレジ係なら、ペイペイって言われたらちょっとイラッとする。 小馬鹿にされた気分になって、2回スキャンしてやりたくなる。「はい、ペイッ! ペイッ!」とか言って。キャンペーン中にあったといわれる二重決済問題のいくつかはこれなんじゃないかと思う。

商品名は、常に消費者のほうを向いている。一方で、売る側がイラッとする名前、というのがある気がする。昔、オープンしたばかりの焼き肉屋へ行ったとき、割引の効果なのか客が殺到して店内がめちゃくちゃだった。「店長 マ~君」というネームプレートをした目つきの鋭いおじさんに、肉がなかなか来ない旨を告げる。マ~君は大声で指示を飛ばす。その後クルッとこちらに向いて目尻を下げ「すみません~すぐに来ますんで~」とやる。そのときちょうど僕はお酒が無くなってしまったので、「あ、飲み物注文いいですか?」とマ~君に言った。「違う違う! 2皿2皿!」みたいなことを怒鳴っていたマ~君がこちらを向いて「はい~」とやる。「あ、えっと、たんたかたん」「あん?」

「あん?」って言われたな……と思った。鍛高譚は、すっごいパツパツな時に頼むと怒られることが分かった。ペイペイもタイミングによっては怒られる気がする。例えばレジ脇の崖で遭難している人が居てレジ係が歯でロープを支えながらレジ打ちをしているときに「ペイペイ」と言ったら怒られるんじゃないかしら。んで、怒鳴るときにうっかり口を開け、歯で押さえていたロープを放してしまう。谷底に落ちていく遭難者。悪いのは誰? 7:3でペイペイだと思う。

ペイペイ。もし今後使うことになってもペイペイと言わずに「これで……」とだけ発し、携帯の画面を見せる気がする。僕は伏し目がちに、レジ係のご機嫌を伺う。うっかり携帯の画面はロック状態になっていて、宇宙が映し出されている。こいつ……支払いを宇宙に委ねている……よくわからないが、かっこいいな……

もっとも、QRコード決済の最終形態は無人レジだと思うので「ペイペイで」と人類に対して発することができるのは今しかないのかもしれない。「昔さ、人に対して『ペイペイで』って言ってた時期あったよな、あれ何だったんだろうな」みたいな、平成のあるあるに昇華する可能性を感じる。合法的に「ペイペイ」というよくわからない言葉を人に浴びせることができる体験として、楽しむべきなのかもしれない。

そう考えると途端にやる気が出てくる。「ペイペ~イ」とか、ピンクレディーのイントネーションで「ペイ・ペイ」とか、イライラ度を上げていくのもいいと思う。「ペイペイペイ」も、数ちゃんと覚えてこいよ、みたいなバカな人の感じがしていい。ペイペイペイ使いたくなってきた。

ただ、買いたいものがない。