今日から私服警備員

100円ショップへ行った。今日行ったのはキャンドゥである。キャンドゥの看板には、白地にオレンジの「Can☆Do」と、赤地に白の「100YEN SHOP キャン☆ドゥ」がある。前者は綺麗なビルに入っているのを見る。後者はよく路面店として商店街に馴染んでいて、若干のゆるさ、陳列の自由度がある気がする。どこだったか思い出せないけど、 カオスな道具屋みたいな陳列の店舗を見たことがある。謎の期待感があった。吊るされたじょうろに、針金で値札がくくりつけてあった。100円なのに。あれ夢かなあ。多分夢じゃなくて、思わず埃を被った風呂椅子を買った。100円分のプラスチックだからとても小さくて不便だったけどしばらく使った。数年後、我に返ってニトリで大きいのを買った。

さて、今日は家の近くの綺麗な「Can☆Do」 へ行った。緊急事態宣言中かつ閉店間際ということもあって、店内には僕のほかに客は一人もいなかった。キャンドゥのテーマソングであるところの軽快なマーチが無観客状態で響いたあと、「私服警備員が巡回しております」という放送が流れた。客が僕しかいないのにだ。あっ! やりやがったな! と思った。恥ずかしながらこんな簡単なことに僕は今まで気付いていなかった。私服警備員なんていなかったのだ。いや居るときもあるんだろうけど、居ないときもある。「あの人が私服警備員だったら……」という探り合い。万引きをする心そのものが万引きを防ぐ。改めて考えるとすごいアイデアじゃない? ゆるまないネジというのがあって、ふたつのナットが互いをロックする構造になっているのだそう。あれと同じで、二人の万引き犯が互いを監視する事態がありえる。世紀の発明と言われる可能性を秘めている気がする。

そのうち、塾帰りか何かの中学生グループが店に入ってきた。また「私服警備員が巡回しております」と放送が流れて、中学生が僕を見た。あっそうなる?

違う。僕は私服警備員じゃない! 誰かが殺人鬼、みたいな話だったら「俺じゃない! そうか、分かったぞ。俺じゃないということはお前達がそうなんだな!」とかいって殴りかかっていいシーンだよね。100均のペコペコのバットで。 そしたら中学生が「俺らじゃねえってんだろ!」って応じて、ガラスコップを割って尖らせて迫ってきて、あー、そっちだったかー、みたいな。100円で出来る武器そっちかーみたいな。バット=強いみたいな意識で思わず手に取ったことをあの世で恥じるよね。ところで100均の最強武器ってなんだろうな。蚊の嫌いな超音波出す機械かな。ああ、リチウムイオン電池。あいつよく爆発するもんな。おもっくそ衝撃加えたらいいんだっけ。キャンドウ縛りで戦うマンガもうある?

何の話だっけ。そう、私服警備員。でもなんか、そのうち、もしかしたら私服警備員に見られているかも? というのがちょっと楽しくなってきてしまって、中学生が文房具を漁っている棚の裏をスッと通ったりした。私服警備員としての自覚が出てきた。私服警備員ってこうやって作られてるの?

そのうち、とても恐ろしいことに気付いた。このまま僕が他の客から私服警備員として認識されたとき、僕はこの店から出られないのではないか。僕がモノを買って帰ってしまったら、ほかの客は「あっ、あの人ってば私服警備員じゃなかったんだ」と理解する。私服警備員が巡回しているかも、という疑心暗鬼の魔法が解ける。暴徒と化した客は店内の金目のもの(500円商品のこと)を抱え、レジを踏み倒してゆく可能性がある。キャンドゥの正義が、僕に委ねられようとしている。 「私服警備員が巡回しております」と放送が流れた。これは僕のことだ。僕で勝手に治安維持するな。誰か代わってくれ!

まあ、買い物して帰ったけども。その後キャンドゥがどうなったかは知らない。どうもなっていない。