ファッション玉出

オーケーでサイズいろいろおすすめタマゴを買う。

サイズいろいろおすすめタマゴと言うんだから、いろいろなサイズが入っているんだと思うんだけど、正直そんなに分からない。まあ確かに小さいかな、みたいなのはたまに入ってる気がするけど、もうちょっとこう、長細いとかアメーバ型とかあると分かりやすいんだけど、みんな白くて卵形なので、いろいろと言うにはなんだろう、弱い気がする。サイズいろいろアソートチョコっていう商品名で、ミリで大きさの違う立方体のチョコばかりだったらみんな「は?」ってなると思う。おい息子よ、ちょっとノギスもってきて。ああ、確かに、様々なサイズがあるねえ、面白いねえ、みたいになるご家庭はレアだと思う。あれ、そういう家庭に私はしたいわ。タマゴ計ろうかな。ノギス買うわ。

支払を済ませ、サイズいろいろおすすめタマゴをマイバッグに詰めていると、隣で同じように袋詰めをしていたおじさんが、僕のサイズいろいろおすすめタマゴを指さしてきたので、えっ気付いた? 「いろいろ」部分の甘さに? と思ったところ「関西出身ですか?」と聞いてきた。かんさいの発音は、関西人が言う感じのかんさいのような気がしたので、きっとこの人は関西出身なんだろうけど、なんでいま僕にそれを聞くんだろう。そう思ったら続けて「ほら、玉出の」と言われて、あー、と思ったんだけど、僕はマイバッグとして関西の有名スーパーであるところの玉出の黄色いエコバッグを使っている。玉出のエコバッグがおじさんの望郷スイッチをうっかり押してしまったんだけど、あの、あれ、ごめん、僕は関西に住んだことはないし、このエコバッグ、メルカリで買ったんすわ。丘サーファーのファッション玉出なんすわ。しかも自分でメルカリやってないから、妻のアカウントでわざわざ買わせてもらったんすわ。妻に「えっそんなに欲しいの?」って言われながら、まあ、買わせてもらったんすわ。激安スーパー玉出の知名度およびその奇抜さなんてとっくに全国区だから、玉出のバッグはメルカリでも1000個くらい出品されていて、黄と赤の二種類があって、ギューンってスクロールすると黄と赤がチカチカきれいだった。

わーいっぱいあるなーどれにしようかなーってスクロールしても永遠に同じループ、いやこれはループじゃない、この玉出エコバッグの後ろには、玉出エコバッグをファッション玉出ハダカデバネズミ野郎に売りつけようとする1000の顔がある。1000の持ち手がまるで口のように一斉に動く。

いらっしゃい。大人気、玉出のバッグだよ。大阪の新名所、玉出のバッグだよ。欲しいよねえ、玉出のバッグ。

怖くなった僕はそのうちの一つの玉出を急いでクリックする。理由は1枚で売っていたからで、他は「玉出2枚セット! お得!」とかそんなのばっかりで、いや玉出は2枚要らないだろ。玉出のエコバッグ商売で工夫を凝らすな、お前ら全員ほかのビジネスをしろ。だから僕は「オレ、ウル」みたいな、あんまり商売分かってなさそうな写真を選んで「オレ、カウ」とクリックする。アプリの指示どおり進めていくとメルカリポイントみたいな霞で決済完了してしまったので、妻に現金300円を渡した。

そういう経緯よ。おじさん。そういう経緯。それで、なんて言おうかなと思っていたら、あっちはちょっとニコニコしていて玉出を指さして、もう次の手の「玉出いいっすよねえ」の準備をしている。玉出いいっすよねえ体操をしている。そして実際に「玉出いいっすよねえ」と口にした。びっくりした。僕は玉出の話になったらなんも出ない。一度しか行ったことないんだから。そのときは変な弁当を買ってホテルで食べた。200円くらいだった気がする。終了。ほらー。ファッション玉出なめんなよ。玉出のバッグ持ってるけどに玉出の話なんてなんも無いんだよ。

いや、メルカリで買ったんすわ、と言おうと思ったけれど、玉出のファンを前に恥ずかしくなった。メルカリで買うことはいろいろな体験をショートカットすることでもあり、モノによっては少し後ろめたい気分になる。スーパー玉出のエコバッグなんかはおそらくそちら側のもので、僕は玉出の質感を体験せずに購入したのだ。玉出のファンにそんなことを言ったらがっかりされてしまうのではないだろうか。

それで実際に口に出た言葉が、「あー、妻が、はいー、関西で」

バッグの持ち主は妻として会話を強制終了した。まあ、妻は関西出身だし、妻のアカウントで買ったファッション玉出なので、とっさの言葉のわりにだいたいあっていた。玉出のエコバッグはマチがとても広いので気に入っている。弁当が横に入る工夫らしい。